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Jeff the killer
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 【英文】

【日本語】
地方新聞より抜粋: 今日に至るまでの数週間、不可解な連続殺人事件が続き、不穏な空気が世間を揺るがせている。ほんのわずかではあるが手がかりは見つかってはいるものの、依然として殺人鬼は正体不明のまま逃走中であり、警察が行方を追っているとの事。
そんな中、殺人鬼の手から逃げ延びた一人の少年が、果敢にもその体験を我々に話してくれた。
”あの夜、僕は悪夢を見てしまって、真夜中に目が覚めてしまいました 。そしてふと、寝る前にちゃんと鍵を閉めたのにも関わらず、窓が開いている事に気がついたのです。”と被害者の少年は言う。”僕は起き上がって、もう一度窓を閉めました。そのあとはもう、ただ布団を被って寝るだけだったのですが…ちょうどその時、妙な感覚が僕を襲ったんです。まるで誰かが、僕の事を見ているような。なんだろうと思って視線を窓にやると…丸い光が二つ、カーテンの隙間からくっきりと浮かび上がってたのです。それの正体が分かったとたん、僕はベッドから飛び退きました。だってその光は、何者かの目だったのですから。でも、普通の目じゃなかった。目の周りは真っ黒く縁取られていて...とにかく気味の悪い目でした。そしてふと気がつくと、 僕の視線は自然とそいつの口元へと動いていました。
それを見た瞬間、身の毛がよだちました。だってそいつの口は醜く、まるで笑っているかのように、大きく裂けていたのですから。
その人影らしきものは、僕をじっと見つめながらそこに佇んでいました。まるで永遠とも思えるほど、長い静寂に思えました。ついにそいつは口を開いて言ったんです。
”さぁ、眠れ。“と。…まるで狂人のような口振りで。

僕は思わず叫びました 、するとその瞬間、そいつは僕の方へ向かってきたんです。ナイフを手に、僕の心臓目がけて。僕は、そいつを殴ったり蹴ったり床に転がったりして、もうとにかく力いっぱい足掻きました。
その時でした、僕の父親が駆けつけて来てくれたんです。するとそいつは、父の肩へと目がけてナイフを投げつけたんです 。おそらく、近所の人が警察に通報してくれなければ、僕の父は彼に殺されていたのだと思います。
たくさんのパトカーが家の前に集まって、そして警察が僕の部屋の前まで駆けつけてきました。するとその男は踵を返し、廊下まで走って逃げていったんです。そのあと、僕はガラスが割れるような音を聞いたので、急いで部屋から出てみると、裏口に向かう窓が割られているのに気がつきました。僕はそれで、そいつが逃げたのだろうなと確信しました。
僕は、あの顔を二度と忘れることが出来ません…。あの、背筋が凍るような悪意に満ちた目。そして…まるで精神異常者のようなあの笑み。彼の事に関して僕から言えるのはそれだけです。“

警察はこの殺人犯の行方を捜索中。この話を聞いて、殺人鬼だと思しき人物を見た方は、最寄りの警察署へ連絡するように、との事である。

ジェフと彼の家族はちょうど新しい住居へと引っ越したばかりだった。彼の父が職場で昇格したので、それならば、より“相応しい”家に引っ越そう、と言う事になったのであった。
ジェフと彼の弟、リュウはそれに対して口出しする事も出来なかった。新しくて、前よりも住みやすい家。一体誰が、どこに不満など抱くというのだろう?--彼らが荷物を降ろし始めた時、見知らぬ女性が、彼らの方へとやってきた。
「こんにちは。私はバーバラ。あなた達の家のお向かいに住んでいるの。ちょっと自己紹介をさせて欲しくてね。」とその女性は言った。 「ビリー。新しいご近所さんよ。」バーバラは向こう側にいる彼女の息子の方へと振り返ると、彼の名を呼んだ。しかし、ビリーはこんにちは、とだけ言うとすぐに遊び場へ戻っていってしまった。
「私はマーガレット。こちらは私の夫のピーター。そして息子のジェフとリュウです。」ジェフとリュウがお互いに自己紹介をすると、バーバラが彼らを彼女の息子の誕生日パーティーに招待してきたので、ジェフとリュウはすぐに断ろうとした。だが口を挟む余地も無く、彼らの母、マーガレットが「是非」、と誘いを承諾してしまった。
荷物を家に詰め終わると、ジェフは母の元へ来て言った。
「母さん、なんであんな誘いを断らなかったんだよ。母さんはまだ僕を子供扱いしてるっていうの? 」
「ジェフ。」とマーガレットは制止した。「私たちはまだここへ来たばかりなのよ。だったら、お隣さんのせっかくのご厚意を無駄にするのことなんてできないわ。パーティーに行って、それで終わるなら良いでしょう。」
ジェフは何か言おうと思ったが、やめておいた。どうせ何を言っても無駄だと分かっていたからだ。母の発言はいつだって、絶対なのである。
ジェフは自分の部屋に入ると、ベッドの上に飛び乗った。そこに座ってただ、ぼんやりと天井を眺めていると、急に、妙な感覚が彼を襲った。


次の日。ジェフは朝食を食べ、学校へ行く準備をした。朝食を食べている間、彼はまたあの奇妙な感覚が、今度は昨日より、よりハッキリと、まるで何かに軽く引っ張られるかのような痛みと共に沸き上がってきたような気がしたが、彼は再び無視した。朝食を食べ終え、ジェフとリュウはバス停まで歩いていった。
座ってバスを待っていると、突然、スケートボードに乗った複数の少年達が、 ジェフ達の足にぶつかるのではないかと思う程、すれすれの距離で飛び込んで来た。
「い、一体なんだ?」
彼らのうちの一人の少年が着地し、スケートボードを蹴ってそれを持ち直すと、ジェフ達の方を振り返った。エアロポステールのシャツに、穴空きのジーンズを着たその少年は、ジェフよりも一つ下…12歳程に思えた。
「おやおや?どうやら新しい獲物を見つけちまったみたいだなぁ 。」すると突然、どこからとも無く他の二人の少年達が現れた。一人はとてもやせ細っているのに対し、もう一人は太った、大きな少年だった。
「さて。せっかくだから、新入りさんたちに自己紹介しないとなぁ。あそこにいるヤツはキース。」
ジェフとリュウはやせ細った少年を見やった。愚鈍そうな顔つきをしており、一見すると友達にはなれそうな奴だ。
「それでこっちはトロイ。」
今度は太った少年だった。…とてつもなく太っており、それだけではなく脂ぎっていて不潔な感じがする。生まれたときから一度も運動をしていないのではないかと思える程だ。
「そして、俺がランディー。」と、初めに口を開いた少年が言った。「この付近にすむガキ達は皆俺に金を払う事が義務づけられてんだよ。…言ってる事、わかるよな?」
それを聞いた瞬間、リュウは立ち上がってランディーの目をめがけて殴り掛かった。だが、彼の仲間の一人がナイフを引き出し、それを制止した。
「もっと平和的に済ませられると思ったんだけどなぁ。どうやらわからせてやらないと駄目みたいだな。」チッチッ、と舌打ちをしながらその少年はリウへと歩み寄ると、財布をリウのポケットから引き抜いた。


今度は、よりハッキリと、まるで自身を灼くかのような感覚と共に、それはやってきたのだった。

リュウの、大人しくしていろというサインも無視し、ジェフは立ち上がると、ランディーの方へと歩み寄っていった。
「弟の財布を返せよ。じゃないと、どうなるか分かってるんだろうな。」
ランディーはリウの財布を彼のポケットから取り出すと、自身のナイフをも引き抜いた。
「へぇ。どうするつもりなんだよ?」

———そう、彼が言い終えるや否や、ジェフはランディーの鼻を素早く打ち砕いた。驚いたランディーが自身の鼻へと手を伸ばした瞬間をも逃さず、ジェフはその手首を素早く掴むと、ねじ曲げ、骨をバキリと折った。
激痛によりランディーが叫んでいるのにも構わず、ジェフはランディーの手からナイフを奪い取った。
トロイとキースはジェフ目がけて突進してきたが、ジェフは素早くそれをよけ、そしてランディーを地面へと投げ飛ばした。キースは何か罵詈雑言を叫んでいたが、それをどこ吹く風と無視し、ジェフはキースの腕にナイフを突き立てた。ナイフを落とし、ぎゃあぎゃあと悲鳴を上げながらキースは地面にへばりついた。
最後に、トロイもまた突進してきたが、ジェフにはもう、ナイフすら必要ないようであった。トロイの腹めがけてストレートをお見舞いしてやると、吐瀉物を辺り一面にまき散らしながら地に倒れこんでしまった。
リュウは、ただ呆然と、そこに佇んで始終を見守る事しか出来なかった。
「兄さん、大丈夫?」
たった一言それだけ、言う事が出来た。
不意に視線を外へやると、彼らの待っていたバスがやってくるのが見えた。このままでは、自分たちが疑われてしまう―。
そう思うや否や、二人は全力で走り出した。後ろを見やると、バスの運転手がランディー達へと駆け寄っていくのが見えた。

二人は学校に着いたが、今朝の事は誰にも言う事は出来ず、只一日中じっと座っているだけだった。リュウは、兄がどうやってあの三人を打ち負かす事が出来たのかを考えていたが、ジェフにはそれが一体何だったのか、誰よりも理解していた 。あの、何とも形容し難い、恐ろしい…感情。あの時、焼き付くような「何か」が、彼の中でもっと強くなったのを感じた時…。その「何か」が彼を突き動かしたのだ。だれでもいい。目の前にいる者を痛めつけろ、打ち負かせ、と。

そして、信じ難かったが…彼は、それに対して幸福を感じ得ずにはいられなかった。
あの奇妙な感覚は、学校にいる間は一日中、そして家へと帰る途中、今朝あんな事があったバス停の近くを通った時ですら感じられなかった。…恐らくこのバス停を使う事はないだろうが。とにかく、彼はまだ幸せを感じていた。

「学校はどうだった?」
二人が家に帰ると、マーガレットとピーターがそう尋ねてきた。

「すごくよかったよ。」

どことなく不気味な声色で、ジェフはそう答えた。

翌朝、ジェフは、誰かが自室の扉をノックする音を聞いた。扉を開けると誰もいなかったので、リビングへと降りていくと、二人の警官と母が玄関の前に立っていた。マーガレットは鬼の形相でこちらを振り返ると、言った。
「ジェフ。あなた3人の男の子達を怪我させたんですってね。それも酷い方法で。刺された子もいるそうじゃない。本当なの?ジェフ!」
ジェフはうつむいて、それが本当であるという事を母親に示した。

「でも母さん、あいつらが最初に僕たちをナイフで脅したんだよ。」

「その事なんだけれども。」一人の警察が言った。「私たちはその三人の子供達と面会したのですが、うち二人からその刺し傷とやらを確認致しました。残りの一人からは、強く殴られ、腹部に出来た痣を。君たちがあの時逃げ去って行く所を目撃したという証言者だっています。さあ、詳しく教えてもらおうか。」
ジェフはもう駄目だと悟った。自分とリュウが襲われたという事は事実だが、なにしろ証拠が無い。これは正当防衛だと言ったとしても、まかり通らないだろう。その目撃証言にも、僕たちは逃げてなんかいない、と弁解としても無駄だ。実際、彼らは逃げてしまったのだから。
「ジェフ君。君の弟もここに呼んでくれるね。」
———そんな事出来なかった。アレをやったのは、全部自分なのだから。

「あ、あの…。僕なんです。僕が、全部やった事なんです。リュウは僕を引き止めようとしてくれたのに、抑えられなかった。だから…」

警察はお互いを見やると、頷いた。
「そうか。それじゃあ、やはりJDCに——」

「待ってください!」

そこにいた全員が見上げると、ナイフを持ったリュウが階段に立っていた。警察は銃を取り出すと、彼に狙いを定めた。

「僕なんです。あの悪ガキ達に…あんな事をしたのは。証拠ならここにあります。」彼が袖をまくり上げると、その腕にはまるで喧嘩の後にできたかのような、複数の切り傷と痣があった 。

「ナイフを下ろしなさい。」警察がそういうと、リュウはナイフを床に投げ捨て、両手をあげ警察の方へと歩み寄った。

「リュウ、違うよ、僕だよ!僕がやったんだよ!」ジェフは涙を流しながら警察に弁明した。

「…いいんだよ、兄さん。刑事さん、兄さんは僕のために罪を背負おうとしただけなんです。さぁ、どうぞ。」
リュウがそう言うと、警察はパトカーまで補導した。

「リュウ、僕だと言って!僕がやったんだって言ってよ!三人を怪我させたのは僕なんだってば!」

「ジェフ、お願い。皆リュウがやったって事は分かっているんだから、庇う必要なんて無いのよ。」
泣き叫ぶジェフの肩に、マーガレットは手を置くとそう言い放った。
ジェフは、リュウを乗せたパトカーが走り去っていくのを、ただ呆然と見送った。数分後に、父のピーターが仕事から帰ってきた。彼は車庫に立ち尽くしているジェフの様子を見て何かがおかしい事に気がついた。

「どうしたんだ。ジェフ。」
泣きすぎたが故に声が枯れてしまい、父の問いにジェフは何も答える事が出来なかった。私設車道の真ん中で、ジェフはただ一人声を上げて泣いた。マーガレットはピーターの方へ歩み寄ると、事件の事を話した。一時間程して、ジェフは家の中に戻ると、両親は二人ともショックを受けていた。

—————見ていられない。
もし、本当はジェフがやった事なのだと知ったら、彼らはリュウの事をどう思うのだろうか。ジェフには想像もつかなかった。
もう、疲れた。何もかも忘れてしまいたい。
そう思いながら、ジェフは眠りについた。

JDCからリウの便りがないまま、二日が過ぎた。
新しい学校に友人がいるわけもなく、ただ悲しみと、自責の念がジェフを苦しめ続けていた。

そしてその週の土曜日の朝、嫌に幸せそうな顔をしたマーガレットが、ジェフを叩き起こした。
「ジェフ。やっと来たわよ。」カーテンをあけ、日光をジェフの部屋に満たしながら、明るい声色で彼女は言った。
「来たって…何が?」
ジェフはモゴモゴと寝返りをうちながら言った。
「なにって、今日はビリー君の誕生日でしょ。」

その一言で、ジェフはすっかり目が覚めてしまった。
「母さん、冗談でしょ?あんな事が起きたのにバーティになんて行けるわけが…」

長い、静寂に包まれた。
「ジェフ。数日前、何が起こったのかは分かっているわよね。このパーティーはきっとあの事件のことを忘れさせてくれるわ。さあ、着替えて。」
そういうと、マーガレットは自分も準備をするために降りていった。
ジェフはとても戸惑ったが、クローゼットから適当にシャツとジーンズを引っ張り出すと、彼もリビングまで降りていった。

下に降りると、マーガレットとピーターは派手に着飾っていた。…一体どうして子供の誕生日パーティーなんかにここまで洒落込む必要があるのだろうか。
「ジェフ。その格好で行くの?」
「…派手すぎるよりは良いだろ。」
マーガレットはそのジェフの答え方を諫めようとしたが押しとどめ、代わりに笑顔で答えた。

「そうだなぁジェフ。父さんたちはちょっと派手過ぎかもしれない。でも
折角のパーティーなんだから、そんな地味な格好もどうかと思うけどな。」とピーターは言った。
ジェフは不満げに部屋に戻っていくと、「そんな洒落た服持ってない!」と怒鳴った。
「何でも良いのよ。」とマーガレットは答えた。ジェフは彼にとって洒落ていると思える服をクローゼット中探しまわったが、見つかったのは余所行きの黒いズボンと、パーティー用のシャツの下に着る肌着くらいだった。だが肝心の、それに似合うシャツは見当たらなかったので適当に見渡すと、縦縞模様のシャツだけは見つける事が出来た。だが、どれもこれもそのズボンには似合わない。しかし白いパーカーを見つけたので、それを上着として着ていく事にした。

「それで良いの?」と二人は驚いたが、マーガレットが時計を見て言った。
「ああもう、着替えている暇なんて無いわ。早く行きましょう。」
まるで羊飼いのように、マーガレットはジェフとピーターを引き連れて家から出た。
バーバラの家は、彼らの向かいにあった。扉を叩くと、バーバラがいらっしゃいと出迎えてくれた。彼女もまた、ジェフの両親のように派手に着飾っていた。中へと入っていくと、子供が誰一人いない事にジェフは気がついた。

「子供達はみんな今、中庭にいるの。ねえジェフくん。ぜひ、会いにいってみてくれないかしら?」
バーバラの言う通り中庭にいくと、そこは小さな子供達で溢れかえっていた。彼らは奇妙なカウボーイのコスチュームを着て、お互いにオモチャの銃で撃ち合っている。まるでトイザラスの店の中にでもいるようだ。
「ねぇ、遊ぼ!」
———そう思っていると突然、一人の子供がジェフの方へ歩み寄り、オモチャの銃と帽子を手渡した。

「えっと…ううん。僕はもうこんな事する年じゃないから。」
子供はまるで、“素っ頓狂な顔をした仔犬”の様な表情をしてジェフを見た。

「だめ?」
「…いいよ。」
仕方なく、ジェフは言った。

帽子を被ると、ジェフは子供達に狙いを定めて銃を撃つフリをしはじめた。こんなのバカバカしい、と初めのうちはそう思っていたジェフであったが、やっている内に楽しくなってしまっていた。良い年してこんな事をやる羽目になるのは腑に落ちなかったが、おかげで初めてここ数日間の事−———リュウの事を忘れる事が出来た。
ジェフは暫くの間、そうやって子供達と遊んでいた———−———だが。

何か、変な音が聞こえてきた。
ゴロゴロと何かが転がるような…そして、だんだんジェフ達の方に近づいて来る音が———。

次の瞬間、ランディー、トロイ、キースが———−—————−—————あの三人が、スケートボードでフェンスを飛び越えて来た。
そう、あの音は彼らのスケートボードの音だったのだ。

「やっほー、ジェフ。…で合ってるよな?」
スケートボードから降りると、ランディーは深い憎悪の表情でジェフを見据えて言った。
「まだ、俺たち決着ついて無かったよなぁ?」

「もう十分だろう、ボコボコにされたくせに何言ってるんだ。それにお前達は僕の弟をJDC送りにしたじゃないか。」
ジェフは手に持っていたオモチャの銃を捨てると、被っていた帽子をビリビリに引き裂いた。

ランディーの目にはまだ、怒りの情が宿っていた。
「そんなことで、おあいこになるとでも?言っただろ。俺は決着を付けに来たんだ。あの日、俺たちはお前にボコられたが…今日はそうはいかねぇぜっ。」

そう言い終わるや否や、ランディーはジェフの方へと突っ走ってきた。そして彼を地面に押し倒すと、ランディーはジェフの鼻を殴った。だが、ジェフはランディーの耳を引っ掴み、 彼を地面に組み伏せ、そのまま頭突きを喰らわせた。そしてそのままを突き放すと、二人はお互いよろめきながら立ち上がった。
子供達は悲鳴を上げ、親達は彼らをつれて家から飛び出していった。
「邪魔するんじゃねえ!さもないと内臓ぶちまかすぜ!」
トロイとキースはポケットから銃を取り出すと、そう叫んだ。

ナイフを取り出すと、ランディーはそれをジェフの肩に刺した。
激痛による悲鳴を上げ、膝から崩れ落ちるジェフの顔を、ランディーは間髪入れず蹴り倒す。だが、三度目の蹴りを喰らった直後、ジェフはランディーの脚を掴み、捻って転倒させた。倒れ込んだランディーを尻目にジェフは立ち上がり、裏口までヨロヨロと歩いていった。だが、トロイによって阻められてしまう。

「手伝ってやろうか?」
トロイはジェフのパーカーの襟首を掴むと、彼らのいた中庭からリビングに続くサッシ窓へと、思い切りジェフをぶん投げた。
—————立ち上がろうと、ジェフは踏ん張った。だが、タイミング悪くやってきたランディーによって足を蹴られ、再度転倒してしまった。そして彼は、血反吐が出るまで何度も、何度も———先ほどと同じように、ジェフの顔面を蹴り始めたのであった。

「こいよ!」
ランディーはジェフを抱え上げると、リビングへと投げ飛ばした。
「どうしたよジェフ。俺を見ろよ!」
血塗れになりながらも、ジェフはランディーの方へ視線をあげた。

「俺はお前の弟をJDC送りにした張本人だぜ。お前はただそこでヘバってろ。弟が死ぬまで牢屋で人生を無駄にするのを待ってるだけの、情けねえ野郎はよ!」
それを聞いて、ジェフはぐぐ、と立ち上がった。
だがもう、立っているだけで限界だった。その顔は、血と酒にまみれている。

「やっとか−——。さぁ!続きを始めようぜ!」

———この時、この瞬間。
もう一度、ジェフの中の、あの感情が沸き上がってきた。
あの時、バス停での…。いや、彼がここに引っ越して来たときからあったもの、そしてあの喧嘩以来、久しく感じ得なかった…あの、奇妙な感覚が。

「やっと…やっと本気になったか!」
猛スピードで、ランディーがジェフに仕掛けてきた————その時だった。

彼の中の何かが、ブツリと音を立て、切れた。

———もう、正常な思考も何もかも…すべて消え失せた。
頭の中は空っぽだ。
今はただ、目の前のこいつを−———
−—————−—————−—————殺す。

−——興奮し突進してきたランディーの身体をガシリと掴み、そしてそのまま抱え上げると——−—————−—————

脳天から一気に、彼を地にたたき落とした。

痙攣するランディー。だがそれに構わず彼の髪を掴んで引き上げると、ランディーの心臓に、強力な一撃を喰らわせた。
そしてその一撃で、ランディーの心臓はぴたりと停止してしまった。

酸素を求め、口をぱくぱくさせながらもがくランディーを厭わず、ジェフはまるでハンマーを振り下ろすかの如く、身体の穴という穴から血が吹き出るまで、何度も彼を殴打した。
そして止めの一撃を喰らわせると、ランディーはびくりと痙攣し、事切れた。

皆の視線は、一斉にジェフに集まっていた。彼の両親、パーティーに遊びに来た子供。そして、トロイとキースさえも、ジェフに銃口を向けている事すら忘れ、彼に釘付けになっていた。そして自分に向けられた銃口に気付いたジェフは、二人を目がけて階段を駆け上がってきた。
我に返ったトロイとキースはジェフに向けて銃を何発も発砲し続けたが、弾はどれも一切当たらず、彼らは追いつかれてしまった。
二人はジェフの後ろに回り込み、最後の弾を放った、が、ジェフはそれを躱し、浴室へと逃げ込んでいった。彼はそこで、壁にあったタオル掛けをぐっと掴むと、そのまま凄まじい力で壁から引き剥がした。するとそこへ、ナイフを手にしたトロイとキース達が駆け込んで来た。

ジェフを見るや否や、トロイは彼目がけ素早くナイフを振った。しかし、ジェフはすぐさま後ろに退いてそれを躱すと、トロイの顔にタオル掛けを一直線にぶち込んだ。

太った、巨体の少年が、ガクンと崩れ落ちる。
−———最後に残ったのは、キースだけだった。
キースはジェフが振ったタオル掛けの一撃を躱す。どうやらトロイよりは身軽のようだ。
キースはナイフを自ら捨てると、ジェフの首根っこを引っ掴み、そのまま壁に強く押し込んだ。その衝撃で、二人の頭上にあった棚が揺れ、漂白剤のようなものが倒れ、中身が空中でぶちまけられた。
肌が、目が、焼ける。———−———両者ともその劇薬による痛みに耐えきれず悲鳴を上げた。
ジェフは視界を取り戻すため、目についた劇薬を拭き取ると、タオル掛けを掴み直し、キースの脳天を上から一気にかち割った。

ぜぇ、ぜぇという呼吸音が部屋に響く。
目の前に転がるこいつはもう、助からない。
……だがそれにも関わらず、キースは何故か、ジェフを見つめニンマリと微笑んでいた。

「何がそんなに可笑しいんだよ?」
あまりの気味悪さから、ジェフは尋ねる。
キースはどこからとも無くライターを取り出し、こう答えた。

「−———何が、面白いかって?」
——————まさか、と、ジェフは大きく目を見開く。

「自分が何に塗れているのか。…気付いてないお前が、だよ。 」

かちり、という音。
—————火のついたライターが、ジェフへと投げ込まれた。

彼に触れた瞬間、ライターはアルコールに反応し、瞬く間に炎がジェフを包んでいった。
アルコールが、漂白剤が、彼の肌を焼いていく。

ジェフは炎に包まれながら、まるで獣のような叫びを上げてのたうち回った。
だが燃え盛る炎は一向に消える気配が無く、まるで地獄の中を歩いているようだ。

散々転がり回り、炎をまとった少年が一人、そのまま地に伏す。

瀕死の彼が見た最後の光景は、母親と、その他大勢の人達が未だ燃え盛る炎を消そうとしている所だった。
そして、彼の意識は途絶えた。

−———何も見えない。
目が覚めると、顔中、包帯に巻かれている感覚があった。
いや、顔だけではなく、体中に包帯が巻かれているようだ。立ち上がろうとすると、腕には複数のチューブが取り付けられてあったようであり、彼が起き上がった瞬間に外れてしまった。

「駄目ですよ、まだ起きちゃあ。」
一人の看護婦が慌てて駆けつけてきた。彼女はそう言うと、ジェフをもう一度ベッドに寝かせ、再度チューブを彼に取り付けた。ジェフは何も見えないまま−———自分が今どこにいるのかも分からないまま、ぼうっとしていた。
数時間した後、マーガレットが入ってきた。

「ああ、ジェフ。身体の具合はどう?」と駆けつけた彼女は尋ねたのだが、ジェフは顔が包帯でぐるぐる巻きにされていたので、答える事はおろか話す事も出来なかった。
「ジェフ。良い知らせが届いたわ。あのパーティーの日、ランディー達がバス停であなた達を襲おうとしたっていう事を言ったのでしょう。それを聞いた人たちがね。警察にちゃんと話してくれたの。だからリュウは自由の身になったのよ。」
ジェフは思わず飛び上がりそうになったが、ぐっと堪えた。腕にチューブが取り付けられていた事を思い出したからだ。
「リュウは明日にでも帰って来られるそうよ。また一緒に皆で暮らせるわね。」

マーガレットはジェフを抱きしめ、またね、と言って病室を去っていった。ジェフの顔に巻かれている包帯が解かれる日まで、暫くは彼の元へ家族が皆でお見舞いに来てくれた。そして、ついにその日はやってきた。
家族は皆、部屋の隅で座って待ちながら、ジェフの顔から最後の一枚が解かれていくのを見ていた。

「それ」を見た瞬間、マーガレットは悲鳴を上げた。リュウとピーターは「それ」を凝視したまま、動く事が出来なかった。

「−———なんだよ?僕の顔がどうしたんだよ?」ジェフはそう言うと、ベッドから飛び退き、トイレへと駆け込んでいった。

その姿を目にした瞬間、ジェフは理解した。
鏡の中に映っていたのは−———−———怪物だったのだから。

彼の唇は酷い火傷を負っており、深く、どす黒い赤に染まっていた。そして、これは漂白剤によるものなのだろうか。彼の顔は真っ白に染まっており、髪の色も茶から黒に変色していた。
−——なんだ、これは?

恐る恐る、自身の顔に手を触れる。
まるでゴムのような感触が、手のひらを通して伝わってくるではないか。

ジェフが鏡と家族、交互に見やると、リュウが口を開いた。

「ジェフ、その…。お、思ったより大丈夫そうだね…」

「...何を言ってるんだ?」

「完璧じゃないか。」

その一言に家族は驚愕し、皆一斉にジェフを見つめた。
途端、ジェフは笑い始めた。左目と左手をブルブルと痙攣させ、狂ったようにゲラゲラと笑うその姿はさながら制限の効かなくなった機械のようである。

「ジェ、ジェフ…。大丈夫?」

「さっきから何言ってるんだよ?こんな——−———こんなに幸せな気分、初めてだよ!ハハハハハハ。ハハハハハハハ!ハーーーーーッ。」

ひとしきり笑った後、吐き出すようにしてジェフは呼吸を整えた。そして鏡越しに自分の顔を眺め、その感触を楽しむように、うっとりと頬を撫でた。
「この顔こそ…俺が求めていたものだ。」

一体どうしてこんな事になってしまったのだろうか。
ランディーと戦ったあの日、何かが、彼の中で弾けた。
そう。
彼の人格はあの時から、まるで凶悪な殺人マシーンのような人格に変貌してしまったのである。
だが、そんな事をジェフの両親は———知る由もなかった。

「あの———私の息子は…大丈夫、なんですよね。…頭、は。」
マーガレットは医師に尋ねた。

「ええ、まぁ。ただこれは、大量に鎮痛剤を服用した患者によくある事でして。もしも数週間以内に元通りにならない様でしたら、すぐにまたここへ連れてきてください。精神に異常が無いかチェックを行いますので。」

「ああ、ありがとうございます。」
マーガレットは、狂人のような笑みでまだ鏡を見ていたジェフに駆け寄ると、さあ行きましょうと肩を掴んだ。

「わかったよーッ。母さぁん。」
ジェフは変わらずゲラゲラと笑い続け、時折不規則に、笑い疲れて息を吐き出すかのような声を上げながら、引きずられていった。

こちらです、とその女性は机においてあるものを指すと、マーガレットはそれを見下ろした。あのパーティーの日、ジェフが着ていたよそ行きの黒いズボン、そして白いパーカー。どれも一点の血の染みもなく、綺麗に修復されてある。ジェフを部屋に招き入れ、服を着させると彼らは自分たちの家へと戻っていった。
それが彼らにとって最後の日になろうとは、思いもせず。

その日の夜遅く、マーガレットはバスルームから聞こえる奇妙な音で目が覚めた。———まるでだれかが、泣いているような声が聞こえるのだ。
彼女は忍び足で、一体それが何の音なのかを確かめに行く事にした。

バスルームを覗くと、そこには信じられない光景が広がっていた。

「——————じ、ジェフ。一体何をしているの?」

ナイフを片手に、ジェフはまるで笑顔でも描くように自分の頬をザクザクと削っていたのだった。

ジェフはゆっくりと母の方へ振り返ると、言った。
「ずっと笑顔を保っているなんて、不可能だろう?母さん。だから、こうやったらずーっと笑ってられるんじゃないかって、思ったんだよ。」

「ジェフッ。そ、その目は————!」
マーガレットは息子の瞼の異変に気がついた。真っ黒い輪が、目の周りをぐるりと囲んでいる。
まるで彼の目はもう、二度と閉ざされる事は無いかのように…。

「こうするしか無かったんだよ。だってずっと自分の顔を見ていたいのに、瞼が邪魔なんだもん。でも焼いてさえしまえば、もう永遠に閉じる事は無いよね。これでずっと自分の顔を見る事ができるよ…。僕の新しい顔を、ね。……どうかしたの、ママ。」
マーガレットはジェフから滲み出てくる狂気に耐えきれず、思わず後ずさった。

「僕、綺麗でしょ?」

「え、ええ。綺麗よ。」
彼女は答えた。

「お、お父さんを呼んでくるわね。あ、あなたの素晴らしい顔、見てもらわなくっちゃ。」

マーガレットは寝室に駆け込むと、ピーターを揺り起こした。
「あ、あなた。銃を取って!早く−—————−—————」

ふと、彼女はジェフがドアに立っている事に気がついた。
その手には、ナイフが握られている。

「嘘、ついたんだ母さん。」

それが、彼らが耳にした最後の言葉だった。

二人の肉が、内臓が、えぐり出されていく。
——————ジェフはナイフを構えると、あっと言う間に二人を肉の塊にしてしまったのであった。

奇妙な音を聞いて、リュウは飛び起きた。…だが、今は何も聞こえない。
きっと気のせいだったのだろうと目をとじ、もう一度眠ることにする。ウトウトとし始めたその時だった。何か、今までに感じた事も無いような奇妙な感覚が、彼を襲った。
まるで誰かが—————自分を見ているような。

恐る恐る、目を開く。だが、何者かが彼の視界に入ったその瞬間、「そいつ」はリュウの口をガバッと塞いだ。

リュウは「そいつ」の手から逃れようと必死でもがいた。だが、そいつは——————−———−———。

−———ジェフはゆっくりとナイフを掲げると、弟に囁いた。

「さぁ、安心して———眠れ。」

原作者:Sesseur
和訳転載元